音楽チャートの頂点に立ち、グラミー賞では主要部門を含む5部門を総なめにした楽曲があります。それがケンドリック・ラマーの「Not Like Us」です。
この曲は単なるヒップホップのヒットソングに留まらず、ラッパー同士の壮絶な因縁や、サンプリング元となった古い楽曲の引用、巧妙に練り込まれた歌詞と映像のメッセージなど、多層的な元ネタで構成されています。
そこでこの記事では、not like usの元ネタや歌詞の意味、スーパーボウルでの象徴的なパフォーマンスまで、この歴史的楽曲の魅力を紐解いていきます。
- not like usの元ネタとサンプリング元
- 歌詞に込められたドレイクへの告発の意味
- グラミー賞5部門制覇の快挙とその記録
- スーパーボウルでのパフォーマンスの見どころ
目次
not like usの元ネタと楽曲の制作背景
まずは「Not Like Us」がどのような背景で生まれたのか、その全体像を押さえましょう。このセクションではリリース情報、サンプリング元、ビーフの経緯、タイトルの意味、そして歌詞の核心まで順を追って解説します。
リリース日と制作の経緯
「Not Like Us」は2024年5月4日にInterscope Recordsから配信リリースされた、ケンドリック・ラマーの楽曲です。プロデューサーはマスタード(Mustard)が務め、西海岸ヒップホップの重厚なビートが特徴となっています。
この曲の直前にリリースされた「Meet the Grahams」という別のディス曲から、わずか約20時間後という超スピードで公開されました。短期間に矢継ぎ早にディス曲を投下する戦略は、ヒップホップ史でも類を見ない展開として大きく注目を集めました。
リリース直後からSNSでは爆発的にシェアが広がり、Spotifyでは公開初日にストリーミング再生回数1280万回を記録したとされています。ストリーミング時代に生まれた楽曲として、その瞬発力を最大限に活かした勝負曲でした。
リリースのタイミングも絶妙で、ドレイクの反撃を待たず次々と情報が投下される形になり、世論はケンドリック側に大きく傾いていきました。結果として、この曲はビーフの決着を象徴する一曲として受け止められるようになります。
「Not Like Us」は2024年5月4日に公開。Mustardプロデュースの西海岸色が強いビートが特徴です。
元ネタとなった楽曲のサンプリング
not like usの元ネタとして語られるのが、アーカンソー州出身のサックス奏者モンク・ヒギンズ(Monk Higgins)が1968年に発表した「I Believe to My Soul」というインスト曲です。曲のグルーヴィーなフレーズが、ビートの基盤として取り込まれているとされています。
さらに楽曲のイントロで流れる印象的なノック音は、「Shave and A Haircut Two Bits」と呼ばれるリズムパターンに由来しています。この音型は1899年に発表されたミンストレル・ショーの楽曲に遡るとされ、アメリカ大衆音楽の古い歴史を連想させます。
この歴史的な引用は、アトランタの黒人音楽文化を築いてきた人々の歴史と重ねられていると解釈されることがあります。カナダ出身のドレイクを「よそ者」として位置づけるメッセージと結びつく演出になっているという読み方です。
サンプリングの選び方ひとつ取っても、ケンドリックが意図的にアメリカの音楽史を再文脈化しているのが伝わる構成です。表面的には軽快に聴こえるビートの裏側に、ルーツ回帰と批評のメッセージが忍ばせてあります。
ドレイクとのビーフの発端
ケンドリック・ラマーとドレイクの因縁は2013年8月までさかのぼります。ケンドリックの「Control」のヴァースで、当時のラップシーンのトップランナーたちの名を挙げて挑発したことが最初の火種と言われています。
その後しばらくは水面下で両者がそれぞれの楽曲に仄めかしを織り込む程度でしたが、2024年3月にリリースされたフューチャー&メトロ・ブーミンの「Like That」でケンドリックが登場し、ドレイクとJ.コールへの強い牽制を放ったことで状況は一変します。
ここからドレイク側が反撃し、両者がディス曲を応酬する全面戦争へと発展しました。短期間に複数のトラックが発表され、SNSはその度に盛り上がり、ヒップホップ史に残るビーフとして記録されることになります。
そして応酬の頂点として投下されたのが「Not Like Us」でした。単独で聴いても楽曲として強いインパクトがありますが、一連のビーフの文脈を踏まえることで、元ネタとしての歴史的な重みがより立体的に伝わる作品となっています。
タイトル「Not Like Us」の意味
タイトルを直訳すると「俺たちとは違う」となりますが、「Us」という複数形に重要な意味が込められているとされています。特定の個人をディスするのであれば「Me」にするところを「Us」にしている点が読み解きのカギになります。
ひとつの解釈は、「Us」がアメリカ生まれのヒップホップ・カルチャーを担う人々を指しているというものです。カナダ出身のドレイクに対し「アメリカ発祥の文化を本当に背負っているのは俺たちだ」という線引きを突きつけている、という読み方になります。
別の角度では、「US」をアメリカ合衆国そのものの略と捉え、「お前はアメリカのヒップホップ文化の外にいる存在だ」という皮肉として響かせているとも語られます。どちらの解釈でも、地理的・文化的なアイデンティティが争点となっていることは共通です。
さらにケンドリック本人は、この曲が自分自身を代弁するエネルギーの塊だと語っており、単なる攻撃ではなくアイデンティティの宣言として機能していると説明しています。タイトルそのものが、一つの元ネタを超えた思想の表明になっているのが興味深い点です。
歌詞に込められたメッセージ
歌詞の内容は非常に攻撃的で、ドレイクを「certified pedophile」と呼ぶなど、未成年への不適切な関心を示唆する表現が多用されています。加えて、アトランタの音楽文化を金銭的な利益のために利用しているとの批判も盛り込まれています。
特に話題となったのが「tryna strike a chord and it’s probably A minor」というラインです。音楽用語の「A minor(イ短調)」と英語の「a minor(未成年)」をかけた言葉遊びで、告発のニュアンスを含ませた高度なワードプレイとされています。
また、アトランタに拠点を置くアーティストとのコラボでクレジットを得てきたドレイクの経歴にも、厳しい視線が向けられています。ヒップホップ文化への貢献度や真正性を問う姿勢が、楽曲全体を貫いていると読み解けます。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| リリース日 | 2024年5月4日 |
| プロデューサー | Mustard(マスタード) |
| サンプリング元 | Monk Higgins「I Believe to My Soul」(1968年) |
| 主要メッセージ | ドレイク批判とヒップホップ文化の真正性 |
| レーベル | Interscope / pgLang |
歌詞の一行一行に複数の意味が折り重なっており、シンプルなディス曲という枠には収まらない情報量があります。英語歌詞の背景を日本語訳付きで解説するサイトも多く公開されており、読み比べると発見が尽きません。
歌詞には刺激的な表現が含まれるため、他者に紹介する際は文脈を添えて慎重に扱うのが安心です。
not like usが社会現象となった理由
続いては、この楽曲が単なるディス曲にとどまらず、社会的な現象にまで押し上げられた理由を見ていきます。チャートの記録、グラミー賞、スーパーボウル、MV、日本での反響まで整理します。
ビルボードやストリーミング数の記録
「Not Like Us」は公開直後にビルボード・ホット100で初登場1位を獲得し、ビルボード・グローバル200でも2週連続で首位に立ったとされています。ディス曲が総合チャートの頂点に立つのは異例の展開として話題を呼びました。
Spotifyでは1日あたり1280万回のストリーミング再生を記録したと報じられ、ラップ楽曲としての最高水準の数字を叩き出しました。クラブやラジオ、スポーツ観戦の現場などでも頻繁にかかり、耳にする機会が急増しました。
SNS上ではリリックの一部が切り取られてミーム化され、短尺動画サービスでも繰り返し使われるようになりました。ラップの文脈を知らない層にまで曲のフックが届き、生活の中に自然と入り込む現象が起きています。
数字だけでなく、社会との接点を次々に広げていったのがこの楽曲の特徴です。リスナーの関心が曲そのものから背景へと広がり、元ネタを調べる流れが自然に生まれていきました。
グラミー賞5部門制覇の快挙
第67回グラミー賞では、ノミネートされた5部門すべてで受賞するという歴史的な快挙を達成しました。受賞部門は、年間最優秀レコード賞、年間最優秀楽曲賞、最優秀ラップ・パフォーマンス、最優秀ラップ・ソング、最優秀ミュージック・ビデオの5つです。
特に年間最優秀レコード賞と年間最優秀楽曲賞はグラミー賞の主要4部門に数えられるもので、両方を同時に受賞する楽曲は限られています。ディス曲としてこの領域に踏み込んだ楽曲は極めて珍しい存在です。
5th Dimensionの「Up, Up and Away」と並び、グラミー史上もっとも多くの賞を獲得したシングルのひとつとされています。アワードの視点から見ても、元ネタを含めた作品の完成度が高く評価された形です。
受賞スピーチや会場の反応も大きな話題となり、ヒップホップ全体の存在感を再認識させる出来事として語り継がれています。ジャンルの枠を超えた評価を獲得できたという点で、ラップ史にも大きな爪痕を残しました。
スーパーボウルLIXのハーフタイムショー
2025年2月9日(現地時間)、ニューオーリンズのシーザーズ・スーパードームで開催された第59回スーパーボウルのハーフタイムショーで、ケンドリック・ラマーがヘッドライナーを務めました。このステージはアメリカで最も多くの目が集まる音楽の舞台と呼ばれています。
ショー全体を通じて「Not Like Us」のビートがたびたびフックとして登場し、観客の期待を煽る演出が取られました。曲本編が披露された瞬間は、ドーム全体が歌詞を合唱する熱気に包まれたと伝えられています。
ゲストとしてSZA(シザ)が登場し、「luther」など他の楽曲でも共演しました。アメリカ社会や政治的なメッセージを込めた演出も盛り込まれ、単なる音楽ショーの枠を超えたパフォーマンスとなりました。
パフォーマンスで注目された演出
ステージはアメリカの国旗や星条旗を思わせる大胆なビジュアルで彩られました。ダンサーの配置やライティング、セットチェンジの流れなど、演出の一つひとつが細部まで練り込まれていました。
サミュエル・L・ジャクソンが進行役として登場したことも話題となり、アメリカ社会への視線が巧みに織り込まれた構成に仕上がっていました。ショーの流れ自体が一本のショートフィルムのように演出されています。
スーパーボウルのハーフタイムショーは、ケンドリックのキャリアを俯瞰する構成になっており、入門編としても楽しめます。
MVや演出に隠された表現
「Not Like Us」のミュージックビデオには、ドレイクの邸宅や楽曲に関する小ネタが随所に散りばめられているとされます。例えばサッカーボールやフクロウなどのモチーフは、ドレイクを連想させるシンボルとして解釈されています。
映像全体がカリフォルニアのコンプトンのストリートを象徴する景色で構成され、ケンドリックが育った土地のリアリティを前面に押し出す構成になっています。地元コミュニティの存在感を強調することで、歌詞のテーマに映像的な説得力を与えています。
また、MVの一部には古い黒人音楽や文化へのオマージュと受け取れる要素も織り込まれており、ビート面のサンプリングと映像面の引用が連動しています。元ネタを知っているほど、映像の細部まで楽しめる設計と言えます。
ジャケット写真の隠喩
シングルカバーも注目の的となりました。ドレイクの自宅と思しき航空写真に複数のマーカーが置かれた構図は、告発を視覚的に再現する過激な演出として議論を呼びました。情報量の多い一枚に仕上がっています。
このような視覚的な引用もまた、広い意味での元ネタと捉えられます。楽曲本体だけでなく、ジャケットやMV、ライブ演出まで含めて作品全体を構成する発想は、ヒップホップの表現としても先鋭的な試みといえます。
リスナーの側も、耳で聴くだけでなく目で確かめる楽しみ方が増えました。発表から時間が経っても、新しい解釈や元ネタの発見がSNSに流れてくるのは、こうした多層構造があってこそです。
SNSでの流行と日本での反響
日本でもこの曲は広く話題となり、音楽メディアによる歌詞和訳や解説記事が数多く公開されました。Mikiki、NME Japan、TURNなどのメディアが特集を組み、ビーフの経緯を丁寧に紹介しています。
X(旧Twitter)やTikTokでは、楽曲の一部を使った投稿や考察スレッドが多く流通し、普段ヒップホップを深く聴かない層にも届きました。ビーフをきっかけにケンドリックの過去作を遡って聴くリスナーも増えたと言われています。
解説動画やポッドキャストも続々と登場し、英語と日本語の両面から元ネタにアクセスできる環境が整ってきました。知識の入り口が広がっているので、気になった部分から少しずつ深掘りしていけます。
また、国内のヒップホップメディアやレコードショップのブログでも、この楽曲の文化的な位置づけを論じる記事が次々と登場しました。一曲を起点にシーン全体の潮流を眺め直すきっかけとして機能しており、ヒップホップ入門の手がかりにもなっています。
日本のアーティストによるリミックスやフリースタイルも配信プラットフォームにアップされ、元ネタから派生した二次的な楽しみ方が広がりました。本家の歌詞と比較しながら聴くと、言葉遊びの妙をより楽しめます。
外部の権威性ある情報源を併用すると、情報の精度を高めやすくなります。たとえば英語版Wikipediaの「Not Like Us」ページは受賞履歴やチャート実績の一次情報が豊富です。日本語のニュースソースとしてはNME Japanによるケンドリックのコメント記事が読み応えがあります。また、Universal Music Japanのスーパーボウル速報では公式ライブ映像の告知も確認できます。
他のインターネットミームの元ネタに興味があれば、queen never cryの元ネタ解説記事や、my new gearの元ネタ解説記事、音楽系なら朝の光の中でfunkの元ネタ解説記事もあわせてどうぞ。
not like usの元ネタを知って楽しむまとめ
ここまで見てきたように、not like usの元ネタは楽曲のサンプリング元、ビーフの経緯、歌詞のワードプレイ、MVや演出に込められた引用と、幾層にも重なる構造になっています。どこから入っても別の発見につながるのが魅力です。
ドレイクとのビーフという派手な話題性だけでなく、ヒップホップ文化の真正性という深いテーマが背骨として通っている点が、この曲の評価を押し上げた大きな理由でしょう。聴き込むほどに解像度が上がります。
グラミー賞5部門制覇、スーパーボウルのハーフタイムショー、日本語メディアでの大規模な解説と、この楽曲の周辺には入り口がたくさん用意されています。気になる切り口から少しずつ情報を辿っていくと、背景の立体感が掴めます。
「Not Like Us」というタイトルは、単なる攻撃宣言ではなく、ケンドリックというアーティストの矜持を言語化した一行でもあります。元ネタを追いかけながら歌詞を聴き返すと、同じフレーズでも異なる景色が立ち上がってきます。
まずはMVと和訳、次にスーパーボウルのステージ、最後にサンプリング元の順で追うと、全体像がスムーズに掴めます。