「ぴえん」という言葉を最近見かけなくなった、と感じたことはありませんか。2019年のJC・JK流行語大賞でコトバ部門1位に輝き、Instagram上では関連投稿が11万件を超えるほど広まった言葉です。

しかし数年が経った今、SNSやテレビで耳にする機会は明らかに減っています。「ぴえんはもう死語なのか」と気になっている方も多いはずです。

この記事では、ぴえんの意味や由来、流行語大賞の受賞歴を振り返りながら、現在の使われ方や死語と言われる理由まで詳しく紹介します。

  • ぴえんの意味と生まれた背景
  • 流行語大賞や辞書での受賞・掲載歴
  • ぴえんが死語と言われる理由
  • 今も使われている場面や派生語

ぴえんの意味と流行の歴史

ぴえんという言葉がどのように生まれ、なぜここまで広まったのかが気になる方は多いはずです。ここでは意味や語源、流行語大賞での受賞歴を振り返りながら、言葉の背景を整理していきます。

ぴえんの意味とは何か

ぴえんは、軽く泣きたくなるような気持ちを可愛らしく伝える感動詞です。号泣するほどの深刻な悲しみではなく、ちょっとした落胆や驚き、あふれるほどの嬉しさを表すときに使われています。

守備範囲が広い理由は、ぴえんが特定の感情だけに結びついた言葉ではなく、涙が出そうになる気持ち全般を指す言葉として使われてきたからです。悲しいときも嬉しいときも同じ言葉で表現できる点は、他の若者言葉にはあまり見られない特徴とわかります。

具体的には、「テストの点数が悪かった、ぴえん」のような軽い失敗の場面や、「サプライズでケーキをもらった、ぴえん」といった嬉しい場面、さらには「推しのライブチケットが外れた、ぴえん」のような落胆の場面まで、幅広いシーンで使われてきました。文末に一言添えるだけで、深刻になりすぎずに気持ちを伝えられる手軽さが多くの人に支持された理由です。

「結局どんな感情のときに使えばいいのか分かりにくい」と感じる方もいるかもしれませんが、明確な使用ルールが定められていないからこそ、投稿する人それぞれが自分なりの解釈で気軽に使える言葉になったとも考えられます。

つまりぴえんは、涙目の可愛らしさをまとった、感情表現の幅が広い言葉だと整理できます。悲しみも喜びも同じ言葉で受け止められる懐の深さこそが、ぴえんが広く使われるようになった理由の核心といえます。

それ以前にも涙目を表す顔文字やスタンプは数多く存在していましたが、ぴえんはそれを短い音の言葉として言語化した点が新しかったと整理できます。画像や記号ではなく、口に出しても文字で打ってもすぐに感情が伝わる言葉だったからこそ、会話やコメント欄など幅広い場面に溶け込みやすかったと整理できます。

友人同士のメッセージのやり取りでも、長い説明を書かずに「ぴえん」の一言で気持ちを共有できる手軽さは大きな魅力でした。テンポの速いSNSでのやり取りにおいて、短く感情を伝えられる言葉が重宝されたのは自然な流れだったといえます。

顔文字やスタンプと組み合わせて使われることが多かった点も特徴です。文字だけでは伝わりにくい微妙なニュアンスを、涙目のイラストや絵文字と一緒に添えることで、より豊かな感情表現として受け取られやすくなっていたと整理できます。

ぴえんが使われる4つの場面の例

ぴえんの語源・由来

ぴえんの発祥については、はっきりとした経緯は分かっていません。もともとは目を潤ませた絵文字とともに使われ始めた表現とされ、涙目の顔文字の不憫さと可愛らしさが「ぴえん」という語感にぴったりだったため、言葉と絵文字がセットで広がっていったといわれています。

由来の説はいくつかあり、あるアイドルグループのメンバーが名付け親を自称しているという話や、2018年8月ごろに特定の地域で検索が急増したというデータ分析の結果も伝わっています。どちらの説が正しいかを断定するのは難しいものの、2018年ごろにSNS上で自然発生的に広まったという点はおおむね共通しています。

語源がひとつに定まらないまま広まった言葉は珍しくなく、ぴえんもその代表例のひとつとして扱われることが多いです。誰が最初に使い始めたのかがはっきりしない言葉ほど、多くの人が「自分たちの言葉」として気軽に使いやすくなる面があります。Wikipedia「ぴえん」の解説でも、発祥については複数の説が併記されており、ひとつに断定されていません。

「発祥がはっきりしないと信用できない言葉なのでは」と感じる方もいるかもしれませんが、若者言葉やインターネットスラングの多くは、特定の発信源よりも複数の場所で同時多発的に広まった結果として定着しています。ぴえんもその典型例のひとつと捉えると理解しやすくなります。

このように、語源に諸説あること自体がぴえんという言葉の広がり方をよく表しています。はっきりした起源が語られにくいからこそ、多くの人が気負わずに使いやすい言葉になったという見方もできそうです。

絵文字とセットで広まったという成り立ちも見逃せないポイントです。文字だけでは伝わりにくい微妙な感情の温度感を、涙目の絵文字とぴえんという音の組み合わせで補い合っていたことが、言葉としての完成度を高めたひとつの要因になったと見て取れます。

ぴえんが流行したきっかけ

ぴえんが一気に広まった背景には、SNSでの拡散力の高さがあります。特に女子中高生の間でスタンプ感覚で使われるようになり、投稿の語尾に添えるだけで感情を表現できる手軽さが受け入れられました。

その広がり方は数字にも表れています。日経クロステックの分析記事によると、Instagramでは「#ぴえん」を含む投稿が11万件を超え、絵文字をモチーフにした「ぴえんクッキー」のハッシュタグも1000件以上使われました。TikTokでは関連楽曲を使った動画が7万6000件を突破したとされ、さらに楽曲がゲーム化されたり、音楽配信サービスのバイラルチャートで上位にランクインしたりと、複数のプラットフォームを横断して広がった点が特徴です。

「一部の若者だけの流行だったのでは」と思う方もいるかもしれませんが、テレビや雑誌でも度々取り上げられ、大人の間でも認知度が高まりました。SNS発の言葉が特定の世代を超えて広まった事例として、ぴえんはよく紹介される存在です。

複数のSNSやメディアで同時に取り上げられたことが、ぴえんを一過性のネットスラングにとどめず、社会的に認知された流行語へと押し上げる原動力になったといえます。

芸能人やインフルエンサーが自身の投稿でぴえんを使ったことも、広がりを後押ししました。特定の界隈だけで通じる言葉ではなく、テレビに出演するタレントの口からも自然に出てくる言葉になったことで、幅広い年齢層に浸透していったと整理できます。

雑貨やお菓子など、ぴえんをモチーフにしたグッズが登場したこともSNSで話題になりました。言葉だけでなく、可愛らしい涙目のイラストとして商品化されたことで、実際に手に取れる形でも親しまれる存在になっていったというわけです。

音楽との相性の良さも広がりを後押ししました。ぴえんという感情にちょうど合う切ないメロディの楽曲が動画のBGMとして多用され、言葉と音楽が結びついた形で拡散していったことも、流行を後押しした要因のひとつといえます。

JC・JK流行語大賞での受賞歴

ぴえんの知名度を大きく押し上げたのが、マーケティング会社AMFが発表する「JC・JK流行語大賞」です。2019年の同企画のコトバ部門で、ぴえんは1位を獲得しました。

この企画は、実際に女子中高生を対象にした調査をもとに、その年に流行した言葉を選定するものです。同世代の実感が反映される企画で1位に選ばれたことは、ぴえんが一部のインフルエンサーだけでなく、幅広い層の女子中高生に日常的に使われていたことを裏づけています。

さらに2020年上半期には、ぴえんの進化系である「ぴえん超えてぱおん」も同種の流行語企画のコトバ部門で上位にランクインしています。ひとつの言葉から派生語が生まれ、それも合わせて話題になるというのは、流行語としては珍しい広がり方です。

「若者だけの内輪の流行では」と見る向きもあるかもしれませんが、女子中高生の間で支持される言葉を扱うこの企画で複数年にわたって話題になったことは、ぴえんが一時的な流行にとどまらなかったことを裏づける材料のひとつと受け止められます。同じように女子中高生発の言葉が広く浸透した例としては、ガチやべぇじゃんの元ネタは?流行語の由来を詳しく調査!で紹介した言葉も挙げられます。

この企画自体もメディアで取り上げられる機会が多く、選ばれた言葉が改めてニュースとして紹介されることで、もともと知らなかった層にも言葉が届く効果があります。ぴえんの場合も、この企画をきっかけに知名度がさらに広がった側面があるといえます。

この種の流行語企画は毎年新しい言葉が入れ替わるのが常ですが、ぴえんのように翌年以降も派生語という形で話題を継続させた言葉は多くありません。1位という結果以上に、その後の広がり方にこそぴえんの独自性が表れているとわかります。

同じ企画で過去に1位を獲得した言葉の中には、翌年にはほとんど話題にならなくなったものも少なくありません。それと比べると、ぴえんが複数年にわたって取り上げられ続けたことは、単発のブームでは終わらなかったことを示す分かりやすい指標といえます。

三省堂「今年の新語2020」大賞に選ばれた理由

2020年11月30日、辞書出版社の三省堂が発表した「辞書を編む人が選ぶ今年の新語2020」で、ぴえんは大賞に選ばれました。この企画は、辞書編集者たちがその年に広まった新しい言葉を選定するもので、単なる人気投票とは異なり、言葉としての定着度や汎用性も評価基準に含まれます。

選考にあたっては、「ケーキが売り切れていた、ぴえん」のように、ちょっとした落胆やおどけた気持ちを表す言葉として紹介されました。三省堂の公式ページで公開されているトップ10には新型コロナウイルス関連の言葉も複数含まれており、その年の世相を映す言葉の中にぴえんが選ばれたことは、単なる若者言葉以上の広がりを示しています。

「辞書編集者が選ぶ企画だから堅い言葉ばかりでは」と思う方もいるかもしれませんが、実際には日常会話やSNSでよく使われる口語表現も積極的に取り上げられています。ぴえんが選ばれたのは、まさに生活の中に浸透した言葉として認められた結果と整理できます。

辞書編集の専門家が選ぶ企画で大賞に選ばれたという事実は、ぴえんが単なる一過性の流行語ではなく、言葉として一定の完成度を持っていたことを示す重要な出来事です。

同じ年のトップ10には、社会の変化を映す言葉と若者発の言葉が並んで選ばれており、世代や分野を問わず幅広い新語を対象にしている企画だとわかります。その中でぴえんが最も高く評価されたことは、選考する専門家から見ても言葉としての完成度が高かったことを示しています。

この企画は毎年11月末から12月頭にかけて発表されるのが恒例で、その年を象徴する新語として大きく報じられます。ニュースサイトや情報番組でも取り上げられたことで、ぴえんを知らなかった層にも改めて認知される機会になりました。

派生語「ぴえん超えてぱおん」とは

ぴえんの人気とともに広まったのが、「ぴえん超えてぱおん」という派生語です。ぱおんは、ぴえんよりもさらに強い悲しみや感激を表すときに使われる言葉とされ、「ぴえん通り越してぱおん」のような言い回しで使われることが多くありました。

この言葉は2020年上半期の流行語企画のコトバ部門で上位にランクインしており、ぴえん単体だけでなく、その発展形まで話題になった点は珍しい現象です。感情の強さに応じて言葉を使い分けるという発想自体が、ぴえんという言葉の柔軟さをよく表しています。

「ぱおんまで覚える必要があるのか」と感じる方もいるかもしれませんが、実際にはぱおんを使いこなす人はぴえんほど多くはなく、ぴえんの派生形として名前だけ広く知られるようになった側面が大きいです。

ぴえんからぱおんへと感情の強さを段階的に表現する発想は、ひとつの言葉が単体で終わらず、周辺の言葉を巻き込みながら文化として広がっていく過程をよく示す事例といえます。

ほかにも、ぴえんを好んで使う人を指す「ぴえんの民」や、頬に手を添えて涙を我慢するようなしぐさを指す表現など、ひとつの言葉を中心にいくつもの関連表現が生まれました。中心となる言葉が強く定着すると、その周辺から新しい言い回しが次々と派生していく点も、ぴえんという現象の面白さのひとつです。同じようにひとつの言葉から意味が広がっていった例は、空目はネットスラングでどんな意味?使い方も調査!で紹介しているネットスラングにも見られます。

派生語が生まれること自体、その言葉が一時的な思いつきではなく、多くの人が共通のイメージを持って使いこなせるだけの土台を持っていたことの表れと見て取れます。ぴえんという一語から広がった言葉の輪は、当時の若者言葉の中でも特に大きなものだったと整理できます。

ぴえんから広がった派生語の関係図
できごと
2018年ごろ SNSで「ぴえん」の使用が広がり始める
2019年 AMF「JC・JK流行語大賞2019」コトバ部門1位
2020年上半期 「2020年上半期インスタ流行語大賞」流行語部門1位
2020年11月 三省堂「今年の新語2020」大賞
2022年 三省堂国語辞典第8版に掲載

ぴえんは死語なのか 現在の使われ方

ここまで振り返ってきたとおり、ぴえんは複数の場面で高く評価された言葉です。ここからは、なぜ「死語」と言われるようになったのか、現在の使われ方はどうなっているのかを詳しく見ていきます。

ぴえんが死語と言われる理由

ぴえんが死語と言われるようになった大きな理由は、流行のピーク時と比べてSNSでの新規投稿数が落ち着いてきたことにあります。爆発的な広がりを見せた2019年から2020年ごろと比べると、日常的に使う人の割合は減っている傾向がうかがえます。

加えて、テレビや雑誌で新しい流行語として特集される機会も少なくなりました。言葉としての新鮮さが薄れたことが、死語と呼ばれる背景にあるといえます。流行語は登場した瞬間がもっとも注目を集めやすく、時間の経過とともに話題性が下がっていくのは避けられない流れです。

「新しい言葉が出てくれば古い言葉はすぐに死語になるのでは」と思う方もいるかもしれませんが、実際には使用頻度が下がっても、言葉自体が完全に消えてしまうわけではないケースも多くあります。ぴえんも、話題性という意味では落ち着いたものの、言葉としては残り続けている状態に近いというわけです。

話題性の低下と言葉そのものの消滅は、必ずしもイコールではありません。ぴえんが死語と言われる背景には、あくまで流行としての勢いが落ち着いたという側面が大きいことを押さえておく必要があります。

次々と新しい言葉がSNS上で生まれる環境では、以前ほど注目されなくなった言葉が「死語」と呼ばれやすくなる傾向があります。ぴえんもその例に漏れず、後続の若者言葉が登場するたびに相対的に古い言葉として扱われる場面が増えていったといえます。

特にSNSは流行の移り変わりが速いメディアです。数か月単位で新しい言い回しが話題になっては消えていく環境の中では、ぴえんのように数年間にわたって使われ続けたこと自体が、むしろ息の長い流行語だったと捉えることもできます。

ぴえんが死語と言われる4つの根拠

SNSでの使用状況の変化

SNS上での使われ方にも変化が見られます。流行の初期にはポジティブな感情を含めて幅広い場面で使われていたぴえんですが、時間が経つにつれて、あえて古い言葉として使う、いわゆるネタ的な使い方をされる場面も増えてきました。

「懐かしい言葉だよね」というニュアンスで引用されることが増えたのも、現在の使われ方の特徴です。真剣な感情表現というより、当時を振り返る文脈で登場することが多くなっている点は、流行語のたどる道筋としてよく見られる変化と受け止められます。

「ネタとして扱われるなら、もう完全に終わった言葉なのでは」と感じる方もいるかもしれませんが、懐かしさを込めて話題にされること自体、多くの人の記憶に言葉として残り続けている証拠でもあります。忘れ去られた言葉であれば、そもそも話題に上ることすらありません。

使われ方の変化は、言葉が社会に浸透していく過程で自然に起きる現象です。流行の最前線で使われる段階から、共通の思い出として語られる段階へと移り変わっていると捉えると、ぴえんの現在地がわかりやすくなります。

動画配信やSNSの投稿でも、当時の流行を振り返る企画の中でぴえんが取り上げられることがあります。こうした振り返り企画で紹介される言葉は、完全に忘れられたわけではなく、ひとつの時代を象徴する言葉として記憶され続けているといえます。

投稿する側の年齢層が変わってきたことも見逃せません。当時中高生だった世代が社会人になった今、以前ほど気軽には使わなくなった一方、同世代同士の会話ではなつかしさを込めて登場することもあり、使われる文脈そのものが移り変わってきています。

辞書に掲載された言葉のその後

一方で、ぴえんには死語と言い切れない側面もあります。2022年発行の三省堂国語辞典第8版に、ぴえんは「小声で泣きまねをするときの言葉」として品詞は感動詞で掲載されました。

辞書編纂に携わる担当者は、新しい言葉を辞書に載せるかどうかを判断する際、その後10年程度使われ続けるかを基準のひとつにしているとされています。この基準に照らすと、ぴえんは一過性の流行語として消えるのではなく、一定期間使われ続ける言葉として位置づけられたことになります。

「辞書に載ったところで、使われなくなれば意味がないのでは」と思う方もいるかもしれませんが、辞書に採録された言葉は、教育の場や記録として長期間参照され続けます。日常会話での使用頻度が下がったとしても、言葉としての存在自体は残り続けやすくなるという意味で、辞書掲載は大きな意味を持ちます。

流行語が辞書に載るケースは決して多くはなく、その中でぴえんが選ばれたことは、単なる一時的なブームでは終わらなかったことを示す確かな根拠のひとつとわかります。

辞書に掲載された言葉は、教科書や公的な文章で使われることはなくても、辞書という記録の中に残り続けます。数十年後に当時の言葉を調べようとしたとき、ぴえんという言葉とその意味は、辞書を通じて確認できる状態が保たれることになります。

辞書編纂者が言葉を選ぶ際には、単に流行しているかどうかだけでなく、意味が分かりやすく説明できるか、他の言葉と混同されにくいかといった観点も重視されるとされています。ぴえんが選ばれた背景には、感情表現としての分かりやすさも評価されたといえます。

辞書の版が改訂されるたびに、その時代を象徴する言葉が新しく加わり、逆に使われなくなった言葉が削除されることもあります。ぴえんが今後の改訂でどのように扱われていくのかも、言葉の定着度を測るひとつの目安になりそうです。

若者言葉のサイクルと寿命

若者言葉には、短期間で急速に流行して消えていくものと、時間をかけて一般語として定着していくものの両方があります。マジ卍のように短期間で使われなくなる言葉がある一方、辞書に掲載されるまでに定着する言葉は限られています。

この違いを生む要因のひとつが、言葉が指す意味の分かりやすさと使い勝手の良さです。特定の場面や仲間内でしか通じない言葉は流行が去るとともに姿を消しやすいのに対し、誰にでも意味が伝わりやすく応用範囲の広い言葉は、世代を超えて使われ続ける傾向があります。

「結局どの言葉が生き残るかは運次第では」と感じる方もいるかもしれませんが、ぴえんのように悲しみと喜びの両方に使える汎用性の高さは、言葉が長く使われ続けるための重要な条件のひとつと整理できます。

ぴえんはSNS発の言葉としては珍しく、辞書掲載という一般語化に近い段階まで進んだ事例です。流行語がたどる道筋にはいくつかのパターンがあり、ぴえんはその中でも定着寄りの位置にあると整理できます。ユビキタスは死語なのか?語源と使われなくなった理由を調査!で紹介したように、一度は広く使われた言葉が死語と呼ばれるようになる過程には、いくつか共通したパターンがあります。

過去にも「マジ」や「ヤバい」のように、もとは若者言葉だった表現が世代を問わず使われる一般語になった例があります。ぴえんが同じ道をたどるかはまだ分かりませんが、悲しみと喜びの両方に使える汎用性の高さという条件は、すでに満たしているといえます。

反対に、特定の年だけ盛り上がってすぐに姿を消していく言葉も毎年のように登場します。両者を分けるのは、意味の分かりやすさに加えて、幅広い年代や場面で違和感なく使えるかどうかという点であり、ぴえんはこの条件を比較的満たしやすい言葉だったと見て取れます。

流行語のその後3つのタイプ比較

今も使われている場面・使う人の傾向

現在でも、SNS上でぴえんという言葉自体は完全になくなったわけではありません。当時から使い続けている人や、あえて懐かしさを込めて使う人など、使う目的や層は流行期とは変化しています。

2025年時点のギャル語・若者言葉の傾向を見ると、ぴえんや卍のような直接的な感情表現よりも、短くSNSで映える新しい表現へと関心が移っているとされています。次々と新しい言葉が生まれる中で、以前ほど中心的な存在ではなくなってきているのが実情です。

「若い世代はもう誰も使っていないのでは」と思う方もいるかもしれませんが、当時を知る20代を中心に、あえてレトロな表現として使う場面や、家族や友人との会話でネタとして使う場面は今でも見られます。世代を超えて共有される言葉になった分、使われ方も多様化していると捉えられます。

とはいえ、言葉自体が完全に使われなくなったわけではなく、世代や場面によって受け止められ方が異なるのが実情です。流行の最前線からは退いたものの、ひとつの文化として記憶され続けている言葉だといえます。

アイドルやアニメのファンコミュニティなど、感情表現を大切にする界隈では、今でもぴえんが自然に使われる場面が見られます。流行が去ったあとも特定の層の中で使われ続けるのは、若者言葉が生き残るひとつの典型的なパターンというわけです。

小学生や中学生など、当時の流行をリアルタイムで経験していない世代にとっては、ぴえんはむしろ新しく出会う言葉になります。上の世代から伝わる形で言葉が受け継がれていくことも、ひとつの言葉が長く残っていく要因のひとつといえます。

まとめ ぴえんは死語なのか

ここまで、ぴえんの意味や由来、流行語大賞や辞書での評価、現在の使われ方までを見てきました。流行のピーク時と比べれば使用頻度が落ち着いているのは事実ですが、辞書に掲載されるなど言葉として定着した側面もあり、完全な死語と言い切るのは難しい状況です。

使う場面や相手によっては古い印象を持たれる可能性がある一方で、当時を知らない世代にとっては新鮮な言葉として受け取られることもあります。流行語としての勢いと、言葉としての定着度は必ずしも一致しないという点が、ぴえんという事例からよくわかります。

ぴえんという言葉の立ち位置は、時代の流れとともにこれからも変化していきそうです。完全に消えてしまうか、世代を超えて使われる言葉として残り続けるか、今後の動向にも注目していきたいところです。

新しい若者言葉が次々と生まれる中で、ひとつの言葉がどのように広まり、どのように評価が変わっていくのかを見ていくと、ぴえんは非常にわかりやすい題材だと受け止められます。ぴえんという言葉の行方は、これからの若者言葉の移り変わりを考えるうえでも参考になりそうです。

流行語のひとつひとつには、生まれた背景や広まった理由、その後の使われ方の変化まで、それぞれの物語があります。ぴえんという言葉を通して、言葉が生まれてから定着したり消えていったりする過程そのものに目を向けてみると、日常で何気なく使う言葉の見え方も少し変わってくるかもしれません。

ぴえんに関するよくある質問(FAQ)

Q1. ぴえんはいつから流行り始めましたか?

A. ぴえんがSNSで広く使われ始めたのは2018年ごろとされています。翌2019年にはAMFが主催する「JC・JK流行語大賞2019」のコトバ部門で1位を獲得し、女子中高生を中心に一気に知名度が広がりました。その後もインスタ流行語大賞や辞書の新語大賞など、複数の場面で取り上げられ、2022年には辞書にも掲載されています。

Q2. ぴえんの正しい使い方を教えてください

A. 決まった文法があるわけではなく、文末に添えて感情を柔らかく伝える使い方が一般的です。「宿題を忘れた、ぴえん」のような軽い失敗から、「サプライズが嬉しすぎる、ぴえん」といった喜びの場面まで幅広く使われています。悲しみと嬉しさのどちらにも使える点が特徴です。

Q3. ぴえん以外に似た若者言葉はありますか?

A. 感情をコンパクトに伝える言葉としては「エモい」「尊い」なども近い立ち位置とされています。またぴえんの進化系である「ぴえん超えてぱおん」も、より強い感情を表す言葉として一時期よく使われていました。いずれも短い言葉で複雑な感情をまとめて伝えられる点が共通しています。

Q4. ぴえんを今使うと古い印象を持たれますか?

A. 流行のピークから時間が経っているため、使う場面や相手によっては古い印象を持たれる可能性があります。一方で辞書にも掲載され一般語として定着しつつある側面もあるため、完全に使えない言葉というわけではないとされています。

Q5. ぴえんは辞書に載っていますか?

A. はい。2022年発行の三省堂国語辞典第8版に「小声で泣きまねをするときの言葉」として掲載されています。辞書に採録される言葉は一定期間使われ続けることが基準のひとつとされるため、一時的な流行語では終わらなかったことがわかります。